日本では厚生年金や国民年金への積み立てが一般的な老後への備えですが、「消えた年金問題」など、社会保障がどのくらい頼りになるか、先行きが不安な人が増えて来ているようです。米国でもソーシャルセキュリティーという制度があり、一般的な労働者は、毎回の給料から天引きされています。7年以上払うと、米国籍者でなくても受給資格ができ、65歳以上で定年退職する前でも、何らかの形で保障が必要になった際などに、受給できることになっています。でもこちらも日本同様、実際に私たちのような労働者が2、30年後に払った分をもらえるかどうか、その頃までに同じ制度が機能しているかどうかは、誰にもわかりません。そんなこともあって、ソーシャルセキュリティーだけでなく、投資型の積み立て(401k)という制度が、一般的に利用されています。
「投資」というと、少し敷居が高いように感じる人も多いかもしれませんが、どこか特定の会社の株を買うということではなく、投資信託会社の用意した「商品」を複数組み合わせて「ポートフォリオ」を作成します。それぞれの投資先には、細かい説明と過去の実績、今後の見通し(リスク)などが書かれており、希望すれば直接ファイナンスアドバイザーに相談することもできます。自分1人で決めるのが難しければ、同じくらいの年齢と年収の人の典型的な組み合わせなども教えてもらえるので、それを参考にポートフォリオを作成できます。これが意外と楽しいです。例えば、ローリスクローリターンのものに30%、ミディアムリスクのものに50%、ハイリスクハイリターンのものに20%などです。また、更に同じリスクレベルでも、業界の違う会社を組み合わせたり、社会的意義の高い事業を展開している企業を選んだり、自分なりにヘッジします。元本保証がないので、初めての人には不安だと思いますが、大抵の雇用主は、マッチング制度を提供しています。給料から天引きで投資した分の50%程度をマッチング投資してくれることが一般的です。このパーセンテージは企業によってまちまちですが、50%くらいあると、多少下がったとしても、マッチングの分を入れれば、マイナスになることはほぼないと思われます。少なくとも私の過去12、3年の経験では、投資額よりリターンが少ないということはありませんでした。
ただ一時期だけ急に下がったりするのも、この種類の貯蓄の特徴です。確かにこれは非常に焦ります。世界的に有名な「リーマンショック」の時などに、そういった現象は起こりました。でも、ここで焦って引き出したりするのが一番損。少し我慢して様子を見ると、揺り戻しで、また資本が増え始めます。もちろん、これからも必ずそうなる、とは誰も言い切れないのですが、よっぽど大きな、世界的な災害や、大恐慌、大国間の戦争などが起こらない限り、わりと手堅い貯金方法だと言っていいのではないかと思います。もちろん、どのようなポートフォリオを作成するかにもよるし、米国債ですらディフォルトするのでは?という噂も絶えないので、確実に安心とは言い切れませんが。
この制度を利用する一番の目的は、当然老後の収入源なのですが、他にもいろいろなメリットがあります。例えば、世の中の景気に敏感になります。普通に生活していても、ある程度は景気動向を感じることができるのですが、自分のお金の上下具合を見ると、「ああ、この業界はちょっと雲行きが怪しいな。」などといったことを肌で感じられるようになります。それから、昨今はスマホ向けのアプリも充実しているので、毎日の変動を気軽にチェックすることができます。グラフといったような可視化もされているので、自分のお金がどのタイミングでアップダウンしたかが一目でわかります。引き出すのはまだ何年も先とはいえ、そうやってお金が少しでも溜まる様子を感じられるのは悪くないです。また、この方法での投資額は、所得税から控除されるので、多めに投資しておくと、その年に支払う所得税の額が少なくて済みます。ただし、こうやって貯めたお金を引き出す段階になった際には、所得税を払うことになります。でも年金生活になる頃には、所得も減っている見通しなので、トータルでみると節税になることが多いのです。また、ある程度ここでの貯金額が増えた後は、それを担保に、家などの高額なローンを組んだりもできます。更に、失業や事故/病気などで、急にお金が入り用になった場合、ペナルティーなしで引き出しをすることもできます。そういったセルフセーフティーネットとしての側面も、普段から安心して生活するのに重要だと感じます。